体の不調を示す様々なところから現れます。その中の一つが足の使い方にあります。特に足裏の接地(着地)の仕方は体への衝撃やバランスといった観点から非常に重要な意味を持ち、間違った歩き方を続けることがのちの体の状態に影響してくることが少なくありません。この点から不調の原因を探り、解決策を考察したいと思います。 



足の接地の仕方と体への影響

今回お話しする内容は本人は学校に行きたいという気があるにもかかわらず、残念なことに体がいうことを効かなくなってやむを得ず学校をやめなければいけなくなったことについての事例です。

もしかすると運動方法や体のコンディショニングの側面から改善できるのではないかということで掘り下げてお話ししたいと思います。

体の不調の原因を探る

中学時代にサッカーをやっていた男性の事例です。私(森部先生)が専門学校で講義をした時にレポートに書いてくれた内容になります。

その時に行った授業は、人は立つために足が土台になるわけですから、この足が非常に重要であること、足が壊れていることによって体にいろいろな不定愁訴が起きてしまって、そのことによって非常につらい思いをしている人たちが多いということ。

スポーツをやっている人の場合だと競技のパフォーマンスが上がらないし、怪我が増えてしまいます。一般の生活の中でも例えば肩こり、腰痛が増えたり、あるいは仕事や勉強に集中ができないということが起きる事例などを授業で説明しました。

それを受けて書いてくれたのが次のレポートです。 

高校に入ってしばらくすると頭痛、腰痛、肩こりなどが毎日続くようになり、授業中にも過呼吸になることが増え、授業をあまり受けることができず、高校を中退することとなった。この時多くの病院で診察や検査を受けたが、どこにも異常はなく原因は精神的なものと言われた。幼少の時から片足に重心をかけて立つ癖があり、O脚がひどく、歩き方もガニ股だった。その癖が影響する立ち方や歩き方を長年続け、高校に入り身体の不調に強く影響してきたのではと感じた(サッカー)

病院で診察や検査を受けたが、どこにも異常はなかったということです。原因は精神的なものではないかということで終わっています。

結局、この子は高校に行けず中退しています。投薬治療を受けながら病院に通って、現在は復帰は出来ていますが、私の授業を受けた後、自分の体を見たときに足の状態がおかしいことに気が付いたということです。ついでに全身を見たら体もバランスが崩れているということに気が付いて、もしかすると(足が原因か?)、ということに紐付いたわけです。

直接彼の足を測定したわけではないので、因果関係についてこの時点では正確には言えません。ただ、一つの可能性として考えられることは、精神的な症状に現れるような、比較的似た状況というのがどのようなときに出るかというと立ったときに猫背になっている人、顎が前に出たような感じになっている人で背中が丸くなっている人というのは、当然のことながら首、そして背中に負担がかかっていますし、上に負担がかかっているということは腰や膝など下部にも反応として現れます。

どこに一番疲れが残るか、痛みとして自覚ができるかというのは、その人の体の強さだとか、筋肉の付き方、もともとの骨格の強さだとか、こういったところで差が出てきますが、最も症状として感じるのは本人にとって不都合な部分になります。

もし、首や肩が非常につらい場合は、脳が近いわけですから気分的に優れないとか、頭痛がするなどの症状が出やすくなることが考えられます。

膝や腰が痛い場合には、運動機能に直接影響が出てきますので、歩くと痛いとか、運動が出来ないというところで気づきやすいかも知れませんが、ほとんどの場合、頭が痛いとか、気分が優れないとかいう場合には、頭痛薬を飲んだり、横になって寝ておくとか、その程度になっていると思います。

思い当たる節とか、原因があった場合であれば中にはカウンセリングなどのメンタル的なセッションを受ける人もいるかも知れませんが、そういった事に思い当るところがない場合に病院で検査をしても原因がよく分からないことがあります。

しかし、身体的な症状が現れているわけですから病院の先生としては様子を見るためにも症状を緩和するための治療として、一つは薬を飲ませるということが出てきます。このような専門的な判断は、当然医者の行うことですから我々が何かを言うことはできません。

サッカーをやっていたこの子の場合は、可能性としては足に問題があるのではないかと見受けられます。

レポートにあるように「幼少の時から片足に重心をかけて立つ癖がある」ということですが、これは皆さんもやってもらったら分かりますが、どちらかの足を横あるいは前に出して片方(出してない方)に体重をかけてみて下さい。残した方の足に体重をかけて、横または前に出した足の負担を軽減してあげると片脚に体重がかかると思います。

このような状態の時には確実にかかと、そして小指側、後方に体重がかかっているのが実感できるかと思います。

当然のことながら、その時点では指先の荷重がかかっていないので、体重がかかと重心になります。この状態が長く続くと、その部分の筋肉が強く収縮してきます。太ももやふくらはぎで言えば外側、膝の近位、こういったところの筋肉が非常に強く収縮してきますので、骨格がそこに引っ張られてO脚が進んできます。

彼は「O脚がひどく」ということを実際に書いています。そして、歩き方もガニ股だったということです。ガニ股は本来つま先が外側に向いていることをガニ股というわけですが、彼の理解ではおそらくO脚になって歩いているということをガニ股と表現したのではないかと思います。

このような立ち方のクセというのは、小指側に荷重がかかってしかも重心は後ろにあることになります。つまり、自分が楽な立ち方であり、筋肉が努力することなく骨格に任せて立っていることになりますので、そこに体重がかかり続ければ骨格は変形していくことになります。

そうすると自分の体重を支えるために(内側の)筋肉は我慢(収縮)をしていないわけですから、どんどん弱っていって真っ直ぐ立つことさえできなくなる現象が起きてしまいます。

当然、かかとに重心がかかってくると体は後ろにのけぞるような状態になってしまいますので、不都合になるわけです。

ですから、うしろに偏る重心を全体でバランスを取るために頭を前に出して背中を猫背にして、そして前後のバランスを取って立位を確保しようとするわけなんです。

そうすると頭が前に出る、顔が前に出るわけですから、下に落ちるような力が常にかかることになります。下を向いていては歩けないので顎だけ挙げるわけですが、そうすると首だけいつも緊張した状態になっていて、そこが圧迫されてしまうことになります。

圧迫されているところは強く筋収縮が起きてしまいますので、周りにある神経なども圧迫してしまって信号伝達がうまくいかなくなったり、血行が悪くなったり、こういったことが十分に予測ができます。これは医学的な話しでなくても、物理的な部分でも十分に理解ができると思います。

そして、気が付いた時には、例えば頭痛に悩まされる、あるいは肩こり、首の痛みがひどい。こういったずっと続くことによってだんだん具合が悪くなって学校に行きたくないな・・・、辛いな・・・ということになってきたのではないかと予測が立つわけです。

皆さんも真っ直ぐに立ってみて自分の体の重心が今どこにあるのか、ぜひ確認をしてみて下さい。足の裏のどの部分に一番荷重がかかっているのかということと、背中が猫背になっていないか、これを確認するためには壁を背にして立って、身長を測るような状態で真っ直ぐに立っていただいて、腰に過剰な隙間が空かないか、あるいは後頭部を壁に付けるときに無理をして背伸びをしていないか、こういったところをチェックポイントとしてみてください。

もし、いま説明した内容に該当するようなことがあれば足の状態は良くないといえますので、ぜひ改善をするために引き続き解説を聞いて下さい。

では、もう一つ事例を紹介したいと思います。

体の不調の原因を探る

バスケットボールをやっていたという大学生のレポートです。

疲労骨折やシンスプリント(すねが痛くなる障害)の対策として五本指ソックスを履くことや、指先を意識して力を入れたり、つま先で歩くことを提唱された。するとしばし起こっていたこむら返りがあまり起こらなくなり、以前と比べ疲れにくくなっていった。かかとを着けてバタバタ走る癖も、つま先から走れるようになり音が静かになった。
50mのタイムも劇的に速くなり、6秒1を出して大会でも活躍できるようになった。(バスケットボール)

バスケットボールの選手で50mを6秒1で走れる、これはバスケットコートだったらリバウンドを取った後にダッシュをすれば、おそらく2秒かかるかかからない程度で相手コートに攻め込んでゴールを決めるようなポジションまで行けることを意味しています。

アスリートとしては陸上部に入って短距離ランナーになっても伸びが期待できるのではないかなと思われるレベルにあります。

ここで注意することはつま先で歩くこと、これは重要です。

つま先で歩くことは足の指が強くないとできないことですが、これをするためにはソックスは普通のソックスだと指が束になってしまっていますので、なかなか指が使いにくい状態になります。

そこで五本指ソックスや足袋のようなソックス、あるいは三本指ソックスなどいろいろなものがありますが、自分に合ったものを採用して特に親指を使えるようにして上げることが特に重要になってきます。

親指の次は小指ですが、親指と小指がしっかりと使えるようになると、その間にある人差し指、中指、薬指も十分に機能するようになってきます。

つま先で歩くことができるようになると、荷重がだんだんとつま先方向に移動していき、ちょうど足裏の真ん中くらいまで重心が移動してバランス的に理想的になってきます。

そうすることによって上記レポートを書いてくれた学生さんは、それまでと比べて疲れにくくなっていったと言うことです。

4~5年くらい、毎年120人くらいの学生を対象に実験をやっていますが、延べで言うと500~600人がこれまでに実験に参加してくれました。

この実験は、体育館の中を裸足で歩かせるというものです。

普通に歩いていいよと言うと体育館の中ですから、普通に歩くとドスンドスンと足音がするわけです。

そのあとに今度は「足音がしないように歩いて下さい」ということだけ言うと、例外なくみんなつま先で歩くようになります。

そのことによって何が起きるのかというと、足音がしないということはショック(衝撃)を受けていないわけなので、今まで歩いていたことに対して自分の体がこんなに大きな物理的な衝撃を受けていたのかということに気が付きます。

もう一つは足の指から着くことによってみんなきついという感覚を覚えます。足が疲れるわけですが、それだけ足指が弱っているということなんですね。

普段靴下を履いて、靴を履いているため気が付きませんが、裸足になって指先から歩くことによって、自分の足指が弱っていること、足が疲れやすいこと、特に足裏やふくらはぎが疲れやすいということに気が付くようになります。

足指から歩くことによって、筋肉をトレーニングすることにつながっていきますので繰り返し毎日行っておくと1~2週間、遅くても1ヶ月もあればまったく別人のように足指は強化されます。

そのくらい指というのは本来強いものなのです。

この学生さんは特別に走る練習をしていないのに、強い指を取り戻すことによって50mのタイムまで伸びたというこということです。これは一つの証明の事例となるかと思います。

よく野球やサッカーをやっている子とかが、「走るのを速くしたいんですけど」ということで相談をしてくることがあります。

私のパーソナルトレーニングを受けているクライアントさん達の中でも、スポーツをやっている人は10人中9人以上は走るのを速くしたいということで悩んでいます。

全然難しいことはありません。ジム来たときは当然ですが、家の中、通勤通学の途中、可能な限り気が付いた時にはいつでも足の指から歩くようにしなさいと指導しています。

「足音がしないように歩きなさい」と言うだけで、勝手に走るのが速くなっていきます。

もっとパフォーマンスを上げるためには、もちろん特有のトレーニング方法があるわけですが、専門的なトレーニングをやらなかったとしても足の指を優先して使うようにして、かかとを床にぶつけないようにして歩くということを気を付けるだけで自分の運動能力は飛躍的に向上することをお伝えして終わりにしたいと思います。

筋トレTV 出演・動画監修 森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長