膝や腰が痛くて日常生活に支障が出ている・・・そんな人は多いのではないでしょうか。ここでは膝や腰に負担をかけない歩行時の重心のかけ方、その重心を実現するためのトレーニング方法を中心に膝や腰の痛みを予防・改善する方法を実演・解説します。ぜひ日々実践し、悩ましい痛みの予防・改善につなげて下さい。 



少しでも楽に活動するために

腰の痛みや膝が痛いと人は動くことを億劫に感じてあまり動きたがらなくなってしまいます。

スポーツをやっていて怪我をした人はもちろんですが、このような人でなくても、すべての方はずっと人生を生きていく中で徐々に体力をすり減らしていきながら、やがては動きにくい状態となって衰えていきます。

その途中に膝が痛くなる、腰が痛くなる、いろいろな関節の節々が痛む、そういうことによって動作の制限を強要してしまうような状況に陥って非常に不健康な状態に陥ってしまうことが少なくありません。

ところがこのように膝が痛い、腰が痛いというような状態が一瞬でも緩和できたとすると、それはあなたの生活が大きくプラスの方向に変化することを意味していると考えています。

今回は、膝が痛い方、腰が痛い方が少しでも楽に歩けるようにするための非常に重要な秘訣についてお話ししたいと思います。

今回学んでいただきたい事は、足の指を強化するということと出来るだけ楽に立ち上がれるようにするという動作のテクニック、そして太ももの強化、こういったところがポイントになっています。 

重心の位置を意識してみよう

まず、足の指を強化することの必要性というのはどこにあるのかというと、人は立位で立っている時、例えば靴下を履いて、さらに靴を履いている、ほとんど生活の中では二足で歩行しているということが普通になっています。

また、ほとんどの方は外で生活しているわけですね、室内にいても靴を履いている(会社や学校)というのが通常の状態になっていますので、あまり何も考えなくて立っているわけなんです。

ところが立っているだけではほとんどの方、おそらく日本人の99%の方はかかとに重心があります。

かかとに重心があることによって、どうしても体は後方に倒れやすい状態になってしまいますから、前後のバランスをとるために頭を前に出したり、背中を丸くすることによって前後バランスをとってしまうんですね。

これが実は長い間続くことによって膝や腰を痛めることに繋がってくるわけなんです。

どういうことかと言うと、かかとに体重がかかっている状態だと横から見たら背中が少し丸くなって頭が前に出る、そしてかかとに重心があるので足指はやや浮いた状態にあることになります。

こうした状態で歩いていくわけですから当然歩行の際には、かかとから地面にぶつかってしまうことになります。どんなに硬いかかとであったとしても、靴を履いていたとしても地面から跳ね返ってくる衝撃から身を守るほとんど不可能です。

これを改善するためには、立位のバランスをかかと重心から真ん中、できれば前方の方に傾けていく、体幹のレベルでいくとおそらく5~10cmくらいの範囲、僅かな範囲の中ですが重心の変異を起こしてあげる必要があるわけです。

足の指を強化する

では、足指を強化するためにはどのような方法があるのか、私(森部先生)は色々な講座で説明させていただいていますが、まずが椅子に座って行うことからおすすめしています。

座って行う方法と負荷を上げるためのバリエーション

どのようにするのかというと、椅子に座ったら膝を90度に曲げた状態で足の指だけを付いて、足の裏全体浮かす、この方法が一番ベーシックな方法になります。

これだとパソコンの操作をしている時やデスクワークをしている時、こういった状態でも膝から下の部分はトレーニングされた状態であるわけです。

形としては足指の腹の部分だけが床面に付いた状態で、足の裏全体が浮いている形になっています。この状態で姿勢を正しているだけでも十分にトレーニングになっています。

慣れていない状態だと足底筋がつりそうな力が加わってきたり、ふくらはぎが少しプルプルしてきたりすることを多くの方すぐに感じます。

疲れてきたらかかとを下ろしてまたリラックスをして、そして少し時間を置いたらまた足の裏を浮かす。こういったことを繰り返すわけです。

ポイントはかかとを上げるのではなく、足の裏全体を上げることです。

かかと上げることに意識がいってしまうと拇指球までついてしまうことが普通に起きてしまいます。これだと骨格に依存して全然筋力が強くなりません。

従いまして、重要なことはかかとを上げるのではなく、足の裏全体を浮かすということです。足指の腹で足裏全体を浮かすことを意識して下さい。

これに慣れてきたら腕を膝の上に乗せることで負荷を上げていきます。上半身の重みを膝の上に乗せることによって負荷が上がります。

これによって足の指が効果的にトレーニングされる状態を作り出せるわけです。

この状態でかかとを上げ下げして少し動作を加えるのもいいですし、止めたまま(キープしたまま)我慢する方法でも構いません。いずれでも足指をトレーニングすることが可能になります。

そして、トレーニングには過負荷の原理というものがありますので、筋トレに慣れてきた場合には少しずつレベルアップをしていく必要があります。

足指の筋トレに関してどのようにレベルアップするのかと言うと、楽になってきた場合、例えば長時間キープし続けられる、あるいは何十回も動作することができる、そうするとトレーニングとしては負荷が軽くなって効果が頭打ちしてしまうことになります。

そのため、さらに強化していくためにちょっとずつアレンジをしていくわけです。

それぞれの膝に、それぞれの肘を置いていたものを片方の膝に両肘を乗せる、そして足の裏を浮かす。

使っているのは足の指の部分だけです。こうすることによって、片方の脚に上半身の重みが全部乗りますので、トレーニングの負荷が上がります。

これが第二段階になります。これを左右同じように行います。

おおむね一週間単位で慣れていきますので、まずは最初の一週目にそれぞれの膝に、それぞれの肘を乗せてトレーニングして慣らしていったら、翌週からは片方の脚でそれを行います。

さらに次の週ではかなり慣れていますので、さらにレベルを上げるために体重のかけ方は同じですが、何もしていない逆側の脚を宙に浮かして行います。

この状態でトレーニングします。こうすることでかなりトレーニング強度を上げることができます。

ところが人間の筋力、筋肉の能力といものは非常に優れていて、こうしたトレーニングにもたちどころに慣れてしまいます。

さらに慣れてきたら、さらに負荷を上げる必要が出てきます。

次の段階では片方の脚をもう片方の脚に乗せてクロスさせて、脚の重みを加えます。脚を組む形ですね。

そこに上半身の重みを全部かけます。この状態で足指のトレーニングを行うわけです。

座った状態で行うのは、この方法が一番運動強度が高いと考えてよいでしょう。片方の脚を乗せるだけでも相当な重みがあります。そこに上半身を乗せていきます。

トレーニングの負荷は、ふくらはぎ、それから足裏、普段はほとんど意識していないところに強烈な負荷をかけることができますから非常に効率よくトレーニングが進みます。

そして、足の指を使っていますので血行が良くなります。足指の血行が良くなることによって冷え性の改善にも繋がってきます。ご高齢の方、冷え性にお悩みの女性の方、そのような方々の下半身からの健康づくりが、これですべて解決できるほどの優れたトレーニングになります。

立って行う方法

以上のことに慣れてきたら、その次の段階として立った状態で行う方法になります。

何もない状態だとバランスがとりにくくなりますので、椅子や壁を支えとして使うことをおすすめします。

方法としては簡単です。

壁を使う方法を例にすると、壁に両手を沿えて、足指の腹だけを使い足の裏全体を浮かしていくだけです。こうすることで、座って行うよりもかなり運動強度が上がります。

座って行う方法同様に上げたままキープする方法、そして上下を繰り返す方法を試すとよいでしょう。

膝が痛い人の椅子から立ち上がる時のテクニック

トレーニングとしては、これまで説明したことを並行して行っていくわけですが、筋力が向上するまで少し期間がかかります。

それまでの間、膝が痛い人というのは、一回座ると立ち上がることが億劫になって休みがちになってしまいます。日常生活の中であまり動きたくない状態になってしまってはまずいわけです。

このように動くことを避けていくうちにだんだん筋力は低下していき、膝の痛みを改善するどころか悪化させかねないような悪循環を招いてしまいます。

できれば一日の中で座ったり、立ったりということを何度も何度も労力を感じずに簡単にできるような状態になっておいた方が生活の環境というものを非常に利用することが可能になってきます。生活円が広がるわけですね。

一回座ったら膝が痛いからもう立ちたくないということであれば、どんどん体は弱っていきますので、立ち上がる際の痛みを取り除いてあげるだけで動きやすくなってきます。

では、椅子に座った状態から立ち上がるとき、膝が痛い人はどうやって立っているかといいますと、足を手前に引いて膝に手を付きながら立ち上がろうとします。これが膝に痛みを抱えている人の特徴です。

膝に負担をかけないで立ち上がる方法が一つあります。非常に簡単です。

座った状態から、足を一瞬だけ持ち上げて足を下ろす瞬間に立ち上がることです。この動作をやるだけで膝の痛みをほとんど感じることなく立ち上がることが可能になります。

これには力学的な面、それから生理学的な面、色々な面から説明できます。

例えば、体重が60キロ、70キロある人にとっては、両脚の重さが十数キロあるわけです。それが重たい脚をグッと持ち上げることによって、持ち上げた足が下に落ちる勢いを借りながら立ち上がることができます。

自分の体重が60キロ、70キロあったとしても実際には40数キロから50キロくらいのものを動かすことができれば立つことができるわけです。

筋力が上がっているわけではなくて、自分の体の重みをうまく利用しているというテクニックなんですね。

それからもう一つ。どのようなところでこの動きが可能になるのかというと、持ち上げた足が一瞬床に接するときというのはインパクトが生じますので、体は瞬間的にキュッと縮もうとします。

筋肉が縮んで収縮することによって関節が固定されます。関節の内部で軟骨がすり減っているところで骨と骨がぶつかってしまうのが膝が痛い原因なんですが、関節を90度の角度で固定するとそのぶつかりを減らすことができるわけなのです。

そのため必ず膝の角度は90度にします。90度にした状態(固定した状態)で足をグッと持ち上げて立ちます。

こういった事をやってあげれば、膝が痛い人でも非常に楽に立つことができます。

説明の都合上、わざと足を高く持ち上げていますが、上達してくるとそんなに上げなくてもほんのちょっと浮かすだけで同じことができるようになります。ほとんど周りの人から見てもテクニックを使っていることが分かりません。

これは立ち上がるための技術ですが、実は武術をやっているような方はこうした体の使い方は日常でも使っているわけです。

そういった部分も一部応用したテクニックになりますが、簡単にできますのでぜひ毎日練習をしておかれるとよいと思います。

安全性を高めるために太ももを強化する

ここまでのテクニックで動けるような状態を作ったら、さらに安全度を増すために落ちていっている太ももの筋肉を強化する必要があります。

太ももの筋肉を強化するためには椅子に座って行うのが一番簡単で、座った状態から片脚を引き上げて脚を真っ直ぐに伸ばすだけです。

膝を真っ直ぐに伸ばすことによって太ももの筋肉がグッと収縮しているわけですが、関節の曲げ伸ばしをしていないので関節は痛くない状態になっています。

関節の軟骨がすり減っている方だとしても痛みを感じることなく安全にトレーニングすることができるのがこのトレーニングの特徴です。

太ももの筋トレであるレッグエクステンションで膝を伸ばしたときと同じ動きになるのですが、この場合は膝を伸ばしたらキープをするところに違いがあります。重力に対して90度の位置なので、これだけでも非常に強い負荷がかかっています。

この状態で楽になってきたら手を置いて負荷を加えてあげれば強度を増すことができます。

あるいは足を重ねる形でも構いません。

このようにすることで運動の強度を高くしていくことができますから、トレーニングジムに通わなくても自宅で安全に、そして確実に太ももの筋力を復活(特に高齢者の方)させることができます。

そうすると太ももの筋力が強くなって立ち上がるための技術が身について、そして足の指が強くなってつま先荷重で歩くことができるようになれば、膝が痛いような方でも痛みを感じることなく日常生活を楽しむことが可能になってきます。

ぜひ、動画を何回も見直して復習をしながら完全にマスターしていただければと思います。

筋トレTV 出演・動画監修 森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長