ストリクト(フォーム)とチーティングについての基本を学びます。加えて、チーティングの活用方法として「スティッキングポイント」の制限解除と下ろす動作を重視する「ネガティブレップ法」についてを学んでいきます。


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概要と補足

ストリクト(フォーム)とは、いわゆる正しいフォームのことで、スタートポジションからフィニッシュ、そしてスタートポジションに戻るまでを鍛える部位の力だけを使って(※)動作するフォームです。
(※実際には補助筋群が協働して働きますので”鍛える部位の力だけ”ということはありませんが、ストリクトの説明上、割り切って説明しています。例えば、ベンチプレスで大胸筋を鍛える場合、三角筋や上腕三頭筋なども動作をサポートする形で補助的に使われます)

例えば、ダンベルカールの場合は、腕を下ろしたポジション(スタートポジション)から、肘の位置を常に体側に固定したまま、肘の動作のみでダンベルを挙げるといったフォームになります。下ろす時は力を抜いて下ろさず、ブレーキを掛けるようにしてゆっくりと下ろします。
(上級者などでは、さらに絞りを入れるために途中から肘を前に出しながら動作するフォームもありますが、ここでは基本中の基本として正しいフォームを説明しています)

このように鍛えたい部位を反復の過程すべておいて正しいフォームで集中して負荷をかけるフォームがストリクトフォームです。
種目の動作・反復において基本中の基本であり、当然にに守るべきフォームです。

なお、ストリクトフォームといった言葉で表すことは少なく、使うとしても次で解説するチーティングの対比として用いられるケースが多いと思います。

チーティングとは

ストリクトフォームは、守るべきフォームであることは確かですが、中上級者になるとマンネリ化やプラトー(進歩の停滞)に陥ることがあります。
また、刺激に変化を付けて新たな成長を促したいと考える場合もあります。

そんなときに活用できるのがチーティングです。

チーティングとは”ごまかし”のことで、筋トレにおいては「反動などを使ってダンベルやバーベルを挙げる」方法のことを言います。

ただし、活用できると言っても、ただやみくもにチーティングをすればいいというわけではありません。

なぜなら、反動を使うと負荷が他の部位に分散されるし、動作の中~後半は力が抜けてターゲットとする筋肉に十分な負荷をかけることができません。
そのため、ただチーティングをやるだけでは(反動を使うだけは)、筋肥大の効果は落ちると言われています。

さて、有効に活用できる方法はどのようなケースでしょうか。

それは、他のテクニックなどと絡めることで威力を発揮します。
ポイントは、スティッキングポイントとネガティブレップ法です。

スティッキングポイントの制限を解除

まずは、スティッキングポイントの制限を解除させる場合に用いる方法。

スティッキングポイントとは、動作の過程でもっとも困難な局面のことで、可動域の中でもっとも弱いポイントのことを言います。
筋肉が伸びている状態から縮んでいく過程で生じ、急に挙げにくくなったり、それより上に挙げられなくなるポイントのことを指します。

例えば、ダンベルカールの場合は、腕を下ろしたところ(筋肉が伸びている)から挙げる過程(筋肉が縮んでいく過程)の「肘を90度に曲げたあたり」がスティッキングポイントになります。(位置は人によってやや変わってきます)

レップのはじめは疲労度が少ないので、ポイントをスムーズに通過できますが、後半になると、そこから制限がかかったように挙げるのが困難になってきます。

そして、ストリクトフォームで行っている場合は、スティッキングポイントの影響で重量が制限されていることになります。
ここを越えれば、まだ反復できるのにスティッキングポイントが邪魔をしているのです。
(とはいえ初心者の方はある程度のレベルになるまではストリクト行うことが必須です)

つまり、スティッキングポイントを通過した部分は、十分に効かせきっておらず、さらなる成長の余地を残していることになります。

そこで、制限を解除するときに用いるのが、チーティングです。

スティッキングポイントから挙がらなくなったら、体を反らしたり、反動をつけてポイントを通過させた直後、残りの可動域(※)は振り絞ってフィニッシュさせます。
(※)スティッキングポイントを通過したあとは、あまり可動域は大きくありません。

あくまで、チーティングで挙げる範囲は、スティッキングポイントの通過までで、フィニッシュまで一気に持っていくことはしません。
フィニッシュまで一気に持っていくことは、上記で説明した「動作の中~後半は力が抜けてターゲットとする筋肉に十分な負荷をかけることができない」に該当します(下記で解説するネガティブレップ法との併用であればOK)

例えば、筋肥大目的で10レップを目標回数とした場合、ストリクトフォームで8レップ目までは何とかスティッキングポイントを通過したとしたら、9レップ目と10レップ目はチーティングを使って10レップを完了させる形になります。

これで、挙げる動作において十分に効かせることができます。

ネガティブレップ法を自力で行うときに活用

次に、ネガティブレップ法でチーティングを用いる方法です。

ネガティブレップ法は、筋肉が伸びながら力を発揮(エキセントリック収縮)する動作を重視したレップの方法です。
エキセントリック収縮においては筋繊維の微細な損傷が起きやすく、筋肥大に有効とされています。
(ちなみに下ろす動作をネガティブワーク、その反復をネガティブレップ、逆に挙げる動作をポジティブワークと言います)

なぜ、エキセントリック動作を重視する必要があるかと言うと、筋肉が縮みながら力を発揮するコンセントリック収縮(ポジティブ)よりも、筋肉が伸びながら力を発揮するエキセントリック収縮(ネガティブ)の方が強い力を発揮(20~30%ほど)できることが挙げられます。

つまり、ポジティブワークが(基本的には挙げる動作)ができなくなっても、ネガティブワーク(基本的には下ろす動作)ではまだ余力が残っている状態なのです。
これでは挙げる動作の範囲においては追い込めていても、下ろす動作では十分に筋肉を追い込めてないことになります。本当の意味では追い込めていないと言うことですね。

そこで、下ろす動作(または戻す動作)でも追い込む方法が、ネガティブレップ法になります。

ネガティブレップ法はパートナーに補助してもらう方法と自分一人で行う方法があります。

例えば、ダンベルカールをストリクトフォームで反復し、挙がらなくなったらパートナーに補助してもらって挙げます。そして、下ろす動作では自力でゆっくりと下ろします。(最初から補助してもらい、ネガティブのみに集中する場合もあります)
上記でも説明したように、ネガティブワークでは余力が残っていますので、自力でもあと数回反復できます。
こうすることで、ポジティブのみに比べて、十分に筋肉を刺激することができます。

さて、ようやくチーティングを活用する方法です。
ネガティブレップ法を自分一人で行う際にチーティングを使います。

例えば、ダンベルカールを10レップ行いたいところをストリクトフォームで7レップで限界になったときに、チーティングを使って挙げます。
そして、下ろす動作ではブレーキを掛けながら、より意識してゆっくりと下ろします。これを目標の10レップまで3回繰り返します。

このようにすることで、エキセントリック収縮の特徴を生かして筋肉に強い刺激を加えることが可能となります。

なお、使用重量、種目、やり方などにもよりますが、自分一人で行うネガティブレップ法は、チーティングを行うときにスティッキングポイントの解除も行われます。
ただし、スティッキングポイントの項で解説したような「チーティングを使うのはポイントの通過までに留めて、通過直後は力を振り絞って挙げる」ことは必ずしも求められません。
できれば(ポイントまで挙げられれば)ポイントの通過直後に力を振り絞るようにしますが、それも無理なくらい疲労している場合や高重量を使っている場合は、チーティングを使い一気にフィニッシュまで挙げます。そして、ネガティブを意識してゆっくり下ろすようにします。

基本的にはネガティブ重視となりますので、フィニッシュポジションまでのもっていき方は大きな要素ではないのです。
例えば、左右別々に行うコンセントレーションカールの際にネガティブレップ法を用いる場合は、空いている手でアシストして挙げるようなこともします。

以上のようにチーティングは、ただやみくもに利用するのではなく、ティッキングポイントの制限解除やネガティブレップ法との併用など、効果を高めたいときにうまく活用することが大切です。

注意してほしいのは、ある程度の経験を積んでからでないと、むやみなチーティングの活用は怪我を誘発する場合もありますし、やり方が間違っていれば、しっかり効かせられないこともあります。
利用する場合は、自分のレベルを客観的に見て判断するようにしましょう。