日常生活や競技スポーツの面で柔軟性は必要なのか?であるとすれば、なぜ必要になるのか事例を交えて詳しく解説していきます。また、筋トレを通じて行う柔軟性アップの方法についても解説しますので、これまでうまく柔軟性を改善できなかったという方は参考にして下さい。



柔軟性とは?

柔軟性というのは、私たちの体に備わっている色々な体力要素の一つです。

基礎的な体力要素として、筋力や瞬発力、持久力、それから様々な調整力というものがあります。

運動をする時に、行動を起こすための能力としては、筋力、瞬発力により大きな力を出して、それを継続するためには持続力が必要になってくるわけですが、運動もただ行っている運動と洗練された運動とでは質が違うことはお分かりになると思います。

日常生活の動作から競技スポーツの世界まで色々な動作を巧みにコントロールする調整力の中に含まれている要素の一つが柔軟性です。

柔軟性があると単純に柔らかな動きを発揮することができるようになりますが、これはそのようなことが可能になる条件を備えているだけで柔軟性があればスポーツが上手になるとか、日常の生活が円滑に行えるようになるということとイコールではありません。

やはり、いろいろな複雑な体力要素を組み合わせて私たちの動作は作られているわけです。

ここでは日常生活の面と競技生活の面に照準を絞って、考えていきたいと思います。

日常生活の面

日常生活の面というと、日常生活での動作になります。

例えば、朝起きて顔を洗う、歯磨きをする、服を着替える、布団を上げる、このような動作は日常生活の中で行われています。多くの方が、特に問題なく普通に毎日行っていることだと思います。

では、その動作を行う中でどれほどの柔軟性が必要になるのかというと、ほとんど柔軟性は必要ありません。

元々持っている自分の素の状態で問題なく解決できるものというのが日常生活でありますから、その中で高い柔軟性が必要かというと、そういうことはないわけです。

ただ、立ち上がった状態で何かをする時、例えば畳の上に敷いた布団を折りたたんで押し入れの中に収納するという状態であれば、立ったところから腰をかがめて床の上の布団を畳んでいかなければいけませんので、その時にもし柔軟性が不足していて、さらに筋力が足りない、という条件が組み合わさってしまうと、腰を痛めてしまうということは十分考えられます。

また、腰をかがめていったときに、たまたまくしゃみをしてしまったなど、別の要因が加わることで、障害が発生するリスクは高まってしまいます。

そういった時のことを考えると、柔軟性は日常生活の中でもある程度はあった方がいいのではないのかと言えます。

競技生活の面

競技生活の面に関しては、当然柔軟性がなければいけません。

どういう場面で必要になるのかというと、競技の能動的なパフォーマンスを高めるというところにあるのではなく、不可抗力だとか、自分の想定外の動きを強要されるときに起きる外力の大きさに耐えるため、もしくはその時に生じる障害のリスクを避けるために柔軟性は必要であると言えます。

例えば、野球の選手で一塁手が、ランナーが走ってきてこれを三塁から送球されてアウトにしないといけないときにもの凄く脚を伸ばして、開脚をして捕らなければいけないシーンが出てきたりします。少しでも距離をかせぐために最大可動域を越えるようなことを強要されてしまうということが出てきますが、その時にもし柔軟性が足りなければ瞬間的な動きによって肉離れや腱の断裂を起こすということは当然考えられます。

従いまして、障害を予防するという点に関してましては、競技生活の面で非常に柔軟性が必要になります。

一方、競技力ということに関して言えば、速い球を投げるとか、高くジャンプをするなどといったことに関しては、実はそれほど大きな柔軟性は必要ありません。

何故かというと、最大の可動域を使ってフルにパワーを生み出しているということはほとんどないからです。我々の体はどういった条件の時に最大のパワーを発揮することができるかというと、関節が曲がったときの角度、その時に筋肉がどのくらい引き伸ばされているか、その時の筋肉の硬さ、などによってある程度測定が可能になっています。必ず、最適な状態というものがありまして、その角度を越えて、逸脱して可動域を広げたからといって大きな力が出せるわけではないんですね。

従いまして、体が硬いからスポーツが苦手だ、スポーツで一流になれないということを悲観する必要はまったくありませんので、それについては安心して下さい。

競技選手にとって大事なことは、怪我を予防する上で柔軟性が必要になってくるということなので、一方では強くなるためのトレーニングをコツコツと継続してきながら少しずつで構わないので怪我を予防するための柔軟な体づくりに取り組んでいくことで、少なくとも今よりは大きく改善することができます。

柔軟性は他者と比較するものではない

体の構造の一部を取りだして考えると、骨と骨が合わさっているところは関節ですが、そこには関節を包んでいる柔らかい組織、関節包があり、筋肉が別のところから伸びてきて、腱に付着しています。筋肉が骨格を引っ張ることによって関節運動を可能にして、その関節運動を全身いろんなところで巧みに行うことによって、複合的な動きで大きなスポーツ動作が可能になっています。

このような関節周りの構造から分かる通り、柔軟性は筋肉の硬さ、腱の硬さ、骨と骨とをつなぎとめている靭帯の硬さなど、いろいろな要因によって作られているものですから、どこかだけにアプローチすればいいというものではありません。

筋肉だけストレッチしても靭帯や腱とかが異常に硬いとか言う場合には、なかなか可動域が広がらなかったりすることもあるでしょうし、そもそも骨に付着している腱の部位(位置)によっても可動域は変わってきます。

従いまして、柔軟性に関しても他者と比べてもの凄く柔軟な人がいて、自分はそうではないからということで他人と比較しても仕方がないわけです。

必ず、柔軟性の改善についても自分の今の現状をしっかり把握した上で、それが徐々にどのように変わっていくのかという捉え方をするのが一番いいと思います。

筋トレを通じて柔軟性をアップさせる

日常生活の面でも説明しましたが、何かあまり意識していない時にちょっと取った行動に対して筋力が備わってない状態で可動域を大きく広げなければいけなかったようなときに障害が発生してしまうというケースがありますので、それを予防するためには、柔軟性を付けていくとともに筋力を高めていくことも必要であることをしっかり認識していただきたいと思います。

中でも、ぜひお勧めしたいのは、筋トレをしっかり行うことです。

例えば、柔軟性を高めるために前屈のストレッチをするとします。本来ならば床にベタッと着かなければいけないものが、太ももの裏が硬いために途中までしか前屈ができない人がいるとします。一生懸命やっているけどなかなか柔らかくならない、どうしても太ももの裏がつっぱって柔軟性が発揮できないんですと言われる方は凄くたくさんいらっしゃいますが、そのような方がいくらストレッチをやったところで、ただのストレッチだけではなかなか柔軟性は回復しません。

ところが、筋トレをミックスすることによって柔軟性の改善は著しく進行させることができます。

どういうことかと言うと、動かせる範囲だけで動かしていくことで負荷をかけていくんですね。デッドリフトと言う筋トレ種目がありますが、バーベルを持ってお尻をうしろに引きながら体を前傾する動作になります。その際、体が硬い人の場合は、ある程度の柔軟性を発揮した時点で、それ以上下に曲げることができないので、背中が丸まっていってトレーニングしてしまうことになります。そうすると非常に腰を痛めてしまうリスクが高まるわけですね。

従いまして、そこまでやる必要はありません。

筋トレの時にストッパーを入れて、バーベルがそれ以上下がらないようにした状態で構わないので、まずはある程度の柔軟性プラス筋力を高めることに意識を持っていきます。そして、重い重さに引っ張られながら徐々にストレッチをかけていきます。そのことを繰り返し、少しずつ継続していくことによって徐々にではありますが、筋力を向上させながら柔軟性を高めることもできます。

股関節の柔軟性に関しても同じですね。例えば、空手やキックボクシングのような格闘技をやっている、あるいはバスケットボールやバレーボールで守備の中で脚を開いて股関節を柔軟に使えなければいけないというような競技をやっている方が、ストレッチをやってもなかなか股関節が柔らかくならないということはよくあることです。

そのような方でも、柔軟性を高める方法があります。

例えば、バーベルを担いで行うワイドスクワットで腰を下ろしたところの最大可動域、つまり一番深くしゃがんだ時にしっかりおもりを受け止めるトレーニングをやるわけです。そのことによって、おもりの重さで徐々に筋力と並行して柔軟性も高めていくことができます。これについては、スポーツの中で必要な瞬発力だとか、筋力とかを向上させるというところではなく柔軟性を改善させるためのトレーニングということで、ワイドスクワットにおもりをかけて最大可動域行うというようなプログラムを組むことは非常に有効です。

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  • 筋トレTV 出演・動画監修 森部昌広 先生
    九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長