スポーツの試合や大会では緊張はつきものです。しかし、緊張ばかりしていては試合で実力を発揮し、よいパフォーマンスを出し切ることは難しくなるのもたしかです。そこで、実力を出し切るために、どのようにしたら緊張を緩和できるのか、集中力を発揮できるのか、詳しく解説したいと思います。



緊張せずに普段の力・実力を出すために

試合や大会で緊張している時のリラックス方法について解説していきます。

スポーツ競技に限らず、例えばコンサートに望むなど自分が活躍しなければいけない場面に出ていくと多くの方が場馴れしていないことによって緊張感が非常に増してしまって普段の力が出せないことが起こりえます。

ところが、そのような緊張するような場面においても自由にいつもと変わらずパフォーマンスを発揮して凄い成績を残す方がいらっしゃいます。

この違いは一体どこにあるのか、今回は主にスポーツの観点から考えてみたいと思います。

スポーツ選手が成功するためには、よく「心・技・体」の3つの要素について充実していることが望ましいと言われていることは皆さんもご存じだと思います。

そこで、試合で緊張してなかなか自分の実力を出せない方のために、心へアプローチする方法、体へアプローチする方法、技へアプローチする方法を比較的実践しやすい方法について解説してきたいと思います。

心へアプローチ

心がどこにあるのかを考えてみると、概念的には“胸”にあるような気がしますが、実際にそれが存在しているとすれば “脳”の働きなんですね。

脳があるから我々は情緒的な活動ができたり、感動したり、落ち込んだり、楽しんだり、怒ったりとか、そのようなことが起きます。これはすべて脳があるからです。

そこで脳にアプローチするわけですが、どのようにしてアプローチするのか。例えば、言葉でアプローチする方法、イメージでアプローチする方法、動きでアプローチする方法、習慣でアプローチする方法などがあります。

よくイメージトレーニングとか言いますが、イメージトレーニングは上手な人と下手な人とで大きな差が出てしまいます。当然試合で結果を出すためにはプラスのイメージで、いいイメージの映像とかを頭の中に作ることができないといけません。これは非常に訓練が必要になってきます。もちろん効果がありますので毎日いろいろな方法で行うことが大事になります。

脳の細胞に対してどのように働きかけをしていったらよいのかというと、言葉・イメージ・動き・習慣のすべてを組み合わせてアプローチしていくことになります。

どれかだけでいいということではなく、いろいろなことを結び付けていっていつもと変わらない自分を試合の場面に登場させることができるように仕向けていくわけです。

普通に行っていることでいけば、試合に向けてのリハーサル、本番前の直前練習などで、試合前にウォームアップとか行ったりしますが、そういうところの中で絶対できるぞとか、言葉でつぶやいてみたり、勝つイメージで一番いいようなパターンの練習を行ったりします。

動きについては、体や技の部分にも関連してきますので、そこでまた説明をします。

非常に重要なのは習慣です。習慣というのは毎日、できれば毎日の一日の中で朝起きてから夜寝るまでの間、プラスのイメージを持ち続けるというような習慣を持つということがとても重要です。

チャンピオンになるためには、どれだけ強い気持ちを持ち続けられるかという具体的な部分になっていくわけですが、時々やっていますとか、気が付いたらやっていますというくらいでは、なかなか確率は高くなりません。

従いまして、自分にできる方法で、それは言葉でも、イメージでも、動きでも構いませんが、しっかり習慣にしていつもパターンを作っていくということが非常に重要になってきます。

それを最もシンプルに行う方法が、ルーティーン化するということです。

例えば、神社にお参りしたときにお賽銭を投げて、鈴を鳴らして、柏手を打ってお参りをするということは、自分が調子がいい時てあろうと、悪い時であろうと、同じことを皆さんさんやっていると思います。

それと同じように自分はこの流れで、こういう動作をする、あるいはそういう動作をする時にこのようなつぶやきをすればいつもと変わらない自分を作ることができるというパターンを作ってルーティーン化していく、このようなことが非常に重要になってきます。

ぜひ、複合的に組み合わせて脳にアプローチをかけていっていただきたいと思います。

脳は言葉だけで何かやろうとするとなかなか変わりませんので、行動、言葉、それからイメージ、そういったことを複合的に結び付けていくというのが非常に重要であることが分かっています。

体へアプローチ

スポーツ選手の場合は、体へのアプローチが分かりやすいと思います。

体の中でも感覚にアプローチする方法と動きにアプローチする方法があります。

感覚へアプローチ

感覚へアプローチするというのは、まずは呼吸です。いまどのように呼吸をしているのかということで、呼吸が落ち着いている、できるだけ深い呼吸を自然にやっているというイメージが実際の呼吸を作っていきます。

そして、重量感。手足(脚)の重さを感じていきます。腕が重い、腕がだるい、どんどん重くなっていく。これは自分が理解しやすい言葉に置き換えて構いません。

重量感を感じて体が重く、だるくなっているということを考えて、筋肉を緩めていきます。これはリラックスに向けてのパターンになります。

他には、温感です。温まっている感覚を持つことです。熱感を感じるわけですね。手足がポカポカしているなど具体的に自分がイメージしたことを体で感じられるようにする。頭と体を繋いでいくセッションになります。

そして、再び呼吸が深く楽になっているかどうかを感じます。あるいは、一定の速度で心臓が楽に動いていることを感じます。

そして、額が涼しいということで冷涼感を感じることです。頭寒足熱という言葉もありますが、頭が冴えている時というのは、額が涼しい方がいいとされています。それをイメージして実際に感じるようにします。

これら一連のアプローチは、実際には自律訓練法ということで多くの競技選手やトップパフォーマーたちがジャンルを問わずに実践をしている有名な方法です。より詳しい手順については、ご自身で調べてモノにしていただければと思います。

どこでも出来ますので、慣れておくと自分にとって非常に心強い一つのリラックスパターンになってきます。

動きへアプローチ

動きへのアプローチについては、先ほども説明しました決まったパターンを行うことです。

野球の世界では、イチロー選手がバッターボックスで決まった動きをしますが、野球が好きな人であれば知らない人がいないと思います。

あるいは、ラグビーの五郎丸選手がゴールを狙う直前のポーズ(ルーティーン)もあります。

人によってそれぞれで、いろいろな方法があります。自分が一番しっくりくるようなものを作ってルーティーン化することが大切です。

注意しなければいけないには、調子が良くても悪くても必ずそれを行うと一旦自分の感覚をリセットできる。そして、成功に向けて仕切り直しができるということを全部セットにして仕組んでおくことが非常に重要になります。

そして、基礎的な動作、本質的な動作を繰り返す。

例えば、バスケットボールであれば試合前に行うフリースローであったり、スリーポイントシュートであったり、野球であればキャッチボールであったりと、いつもやっていることをどれだけ正確に行うようにします。

これはスピードとリズムを一定の時間の中でどれだけ淡々とできるかということで機械的に行った方がパターンにはまりやすくなります。

先ほど、脳に対してアプローチしましょうとお話ししましたが、脳というのは動きの方に引っ張られる傾向があります。

例えば、ちょっと自信がなくてネガティブな状態になっていても体を動かしていくうちに、そのネガティブな意識が外れてだんだんと動きに専念していって集中力が増すというようなパターンに入っていくわけです。

例えば、シュートを打つとか、キャッチャーに向けてボールを投げるなど、このようなことをリズミカルに行っておくと、その中でも“もうちょっとこうだな”、“こうした方がいな”と普段との感覚の違いを少しずつ自分の体の中で是正していくことができるようになります。

そこにリズムが必要になります。一定のリズムで淡々と行うことで、間違っていたこと、ネガティブな部分を少しずつ補正していきながら通常の自分に戻していきます。最後には“よしできる”と必ず確信を持つことをルーティーン化していくことになります。

技へアプローチ

動きへアプローチ

先ほどの体に対する動きにアプローチすることと重なってきます。

スピードやリズムをしっかり意識しながら淡々と行いましょうということと、パワーを出す。大きな力を出さないとスポーツの世界では勝つことができませんので、どのくらい出せるのか。これは、普段からやっておけば自分のパフォーマンスというのは自分が一番分かっているわけですから、実際にボールを投げてみる、シュートを蹴ってみる。それをやった時の普段との違いは分かってきますので、まずはMAXをしっかり出せるかどうかを確認します。

自分の中での最大(MAX)のパワーは、試合の中では調整しながら正確性の高いところで行っていますので、まずは大きな力を出すことを行っておかないといけません。

それを出しやすくするためのコツとしては、大声を出す、大きな動作をするなど方法があります。それにより一旦自分のリミッターを外すことは非常に有効な方法なので、こういったところも自分のモノにできるように日々反復していただければと思います。

呼吸へアプローチ

呼吸の方法というのは、スポーツの世界では行われますし、最近ではヨガなどに取り組む方も増えていますので、呼吸の大切さは何となくお分かりかと思います。

その方法には、いろいろな方法があります。深呼吸腹式呼吸、あるいはロングブレスなどダイエットのためのメソッドもありました。それ以外には、ドッグブレスと言って、「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」と、わざと短い動きを連続的に行い、ひと呼吸でどれだけ長くコンスタントに息を吐き出すことができるのかといった方法もあります。

このように色々な方法がありますが、一番自分がリラックスしやすい集中できるような方法で行うとよいでしょう。

もちろん、どれかだけということではなく、組み合わせても構いません。

ドックブレスだと呼吸が早くなりますので、体温を上げたり、意識を覚醒して“よしいくぞ”というふうに積極的やる分に関しては効果があるでしょうし、いざ実際に集中してバッターボックスに入るとか、投球モーションに入るとか言うようなときには、それは深呼吸で呼吸を沈めて落ち着かせることも必要になってくると思います。このように、どれかだけということではなくシチュエーション別にどの組み合わせがいいのかということを考えて取り組んでいただければと思います。

脳と体と技の関連性

脳(心)に対してのアプローチ、体に対してのアプローチ、技に対してのアプローチがありましたが、これらは独立して存在するわけではなく、競技能力が高くなればなるほど、すべてが関連しあって繋がってパフォーマンスを作っていきます。

それらは竜巻のように関連しながら徐々にレベルを上げてパフォーマンスを高めていくんだということを理解しておいてください。

昔から言われてきている「心・技・体」これら個別にもアプローチをかけて成長させていかなければいけませんが、結び付けて試合の場面でパフォーマンスを発揮するときのために関連性を持たせておくということが非常に重要になってきます。

心ここにあらずとか、足が地についていないとかならないようにするためには、すべての関連性を理解したうえで日々の練習、トレーニングの中に落としていく必要があるわけであります。

筋トレTV 出演・動画監修 森部昌広 先生
九州共立大学 経済学部准教授・経済経営学科スポーツビジネスコース主任・サッカー部部長、一般社団法人全日本コンディショニングコーチ協会代表理事、一般社団法人日本メンタルトレーナー協会理事、九州大学非常勤講師(健康・スポーツ科学)、財団法人福岡県スポーツ振興公社スポーツアドバイザー、株式会社GET専務取締役、アイ・エム・ビー株式会社取締役、森部塾塾長